ひだまりたんぽぽ

先天性代謝異常症のこどもを守る会

有機酸代謝異常症とは

新生児マススクリーニングで

早期に病気がわかるようになり、

多くの子どもたちが健やかに成長しています

大浦敏博先生

(仙台市立病院小児科 東北大学医学部臨床教授)

一般向けガイドブック

『タンデムマスを導入した新生児マススクリー二ング・有機酸・脂肪酸代謝異常症って何?』

 

発行:タンデムマス導入による新生児マススクリーニング体制の整備と質的向上に関する研究/研究代表者 山口清次(島根大学小児科)/患者のQOL向上に関する研究 分担研究者 大浦敏博(仙台市立病院小児科)

 ● 有機酸代謝異常症とはどのような病気ですか?

 食べ物の中の蛋白質は、消化・吸収された後、アミノ酸に分解されます。アミノ酸はさらに代謝を受けますが、その過程のどこかの酵素が欠損していると代謝の流れがせき止められ、有機酸という物質が体の中に溜まります。この有機酸が過剰に溜まる病気を、有機酸代謝異常症(有機酸血症)と言います。

 主な有機酸代謝異常症メチルマロン酸血症プロピオン酸血症イソ吉草酸血症メチルクロトニルグリシン尿症HMG血症複合カルボキシラーゼ欠損症グルタル酸血症1型βケトチオラーゼ欠損症 

 

 有機酸代謝異常症の症状は、哺乳不良、嘔吐、傾眠(不活発でうとうとする状態)などで、さらに進行すると意識がなくなりこん睡状態となり、けいれんを起こすこともあります。治療が遅れると短時間の内に、死亡することもあります。また、患児の多くに発達・発育の遅れが出てきます。乳児期に発熱・下痢などの感染を契機に症状が出たり、発達の遅れで幼児期に発見されたりする場合もあります。

 一般的検査では、アシドーシス高アンモニア血症尿ケトン体陽性などの所見が見られます。確定診断は尿有機酸分析や血液のタンデムマス分析で行われます。

 

「どうして高アンモニア血症になるの? 解説ムービー」
NAGS欠損症、イソ吉草酸血症、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症による
高アンモニア血症の仕組み
治療薬カーバグル®販売元のレコルダティ・レア・ディシーズ・ジャパン株式会社さまが制作してくださった解説VTRです。難しい仕組みを工場や作業員に例えて非常にわかりやすく説明してくださっています!

 

 

 

 

 ● 有機酸代謝異常症の治療とお薬について

1.急性期の治療

 病気の出始めや急に悪化した時で、症状が激しく生命にかかわる様な時期を急性期と言います。有機酸代謝異常症の急性期はぐったりして呼吸が速くなったり、意識がもうろうとしてきたり、アシドーシスや高アンモニア血症などの重い症状を伴います。設備が整った病院に入院し集中治療が必要です。アシドーシスや高アンモニア血症が改善し、点滴が不要となって食事が摂れるようになったら、慢性期の治療に移ります。

 

2.慢性期の治療

 アシドーシスが改善し、状態が落ち着いている時期を慢性期と言います。慢性期の治療は食事療法と薬物療法が主なものです。日常的に行うもので、家族の方にも十分に理解していただく必要がありますので、以下で詳しく説明します。

 

3.お薬にはどういう種類がありますか?

 有機酸代謝異常症で使用される薬剤は病気によって異なりますが、主なものを紹介します。

カルニチンエルカルチンの内服液と錠剤画像 体内に蓄積した有害な有機酸は、カルニチンという物質と結合し、尿中に排泄されます。この解毒作用を効率よくおこなわせるためにカルニチン(エルカルチン®)を服用します。 一部の抗生物質(メイアクト®、フロモックス®、トミロン®、オラペネム®など)や抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケン®など)を長期間にわたって服用すると、血中のカルニチン濃度が低下することがあります。これらの薬を服用する場合は主治医の先生と相談してください。 ●ビタミンB12 メチルマロン酸血症の中にはビタミンB12がよく効くB12反応性メチルマロン酸血症とよばれるタイプがあります。この病型と診断された患児では、大量(例えば通常量の20倍以上)のB12製剤(ハイコバール®など)を服用するだけで症状が改善し、食事療法が不要になる場合があります。 ●メトロニダゾール 腸内細菌の中にはメチルマロン酸血症やプロピオン酸血症にとっては好ましくないプロピオン酸を産生するものがあります。このような腸内細菌を抑えて、身体の中に入るプロピオン酸を減らすために、抗生物質の一種であるメトロニダゾール(フラジール®)が投与される場合があります。※ フラジール®が効くのは2週間程度なので、急性期以外は特に使用はしなくてよいとも言われています。 ●ビオチン複合カルボキシラーゼ欠損症という病気では、大量のビオチン(10〜40mg/日)を投与すると症状が改善することが知られています。 ●リボフラビン グルタル酸血症2型の一部には、大量(100〜300mg/日)のリボフラビンを投与すると症状が改善する病型があることが知られています。 ●専門家の先生方からのアドバイスドクターのワンポイントイラスト カロリー摂取が多くて、かつ乳酸値が高くなりがちな患者さんはB1を服用していただくのがよいと思います。経腸栄養剤や特殊ミルク中心の制限食をしている患者さんでは、例えばビオチンや、色々なビタミン類が不足する場合もあるので、総合ビタミン剤を適宜服用した方がよい場合があります。ビタミンCなどの抗酸化作用のあるビタミン類は以前からメチルマロン酸血症の患者さんにはよく使われてきていますが、これらの必要性は、患者さんごとの食事内容や検査データで変わりますので、担当の医師に相談されて使用するのがよいと思います。

 

 

 ● 有機酸代謝異常症の食事療法の考え方

 

1. 低たんぱく・高エネルギー食が基本です有機酸代謝異常症の食事

 

 慢性期の治療の中心は食事療法です。食事療法の基本は十分なエネルギーを与えることと、食事中のたんぱく質を少なくして有機酸の元になるアミノ酸(これを前駆アミノ酸といいます)の摂取を制限することです。

 

2. 異化作用と同化作用を理解しよう

 

 ヒトが生きるためにはエネルギーが必要です。食物からのエネルギーが不足すると体に蓄えられているたんぱく質や脂肪を分解してエネルギーを作ろうとします。これを異化作用と言います。逆に食事からの十分なエネルギーがある時は、異化作用は抑制され、エネルギーは体にとって必要な成分を作るために消費されます。これを同化作用と言います。

食事がとれているときの異化と同化(図:ひだまりたんぽぽ作成)

 食事が摂れない時は異化が進み、その結果有害な有機酸やアンモニアが産生され、病状が悪化しやすくなります。食事療法の基本は、異化作用を抑えて、同化作用を進めることです。

食事がとれていないときの異化と同化(図:ひだまりたんぽぽ作成)

 

3. 特殊ミルクはなぜ必要ですか?

 

 たんぱく質制限は有害な前駆アミノ酸を減らすために行いますが、厳しい制限が行われる場合は必須アミノ酸の摂取までも不足します。この不足する必須アミノ酸や栄養素を補うために用いられるのが特殊ミルクです。現在20種類以上の特殊ミルクが供給され、主治医はその病気に適した特殊ミルクを選択します。特殊ミルクは必要があれば生涯続けます。

 自然たんぱく(食品や母乳、調製粉乳からのたんぱく質)やエネルギーの投与量は、体重の伸びや検査値を参考に決められます。具体的な食材や量の決定も患児ごとに工夫する必要がありますので、主治医、管理栄養士とよく相談してください。

 

 

 ● 発熱などで食事が摂れないときは要注意!

 

食欲がない男の子/有機酸代謝異常症患者にとって飢餓は注意です 状態が安定していて食事が十分摂取出来ているときは、異化と同化はバランスがとれています。しかし、発熱によって体力が消耗したり、嘔吐・下痢などで十分に食事が摂れなくなったりした時は、食事療法の考え方で述べたように異化作用が進み、有害な有機酸が沢山発生してしまうので、状態が悪くなります。

 発熱時等は、異化作用が進行するのを防ぐためブドウ糖特殊ミルクを用いていつもより多くのエネルギーを補給します。市販のゼリー状エネルギー飲料(たんぱく質を含まないもの)は、エネルギー補給に便利です。

ゼリー飲料<例>

ウイダーinゼリー エネルギーイン(森永製菓)

エネルゲン FAST BREAK ゼリー(大塚製薬)

 

 発熱があっても食事・水分が摂れている時はあわてる必要はありません。食事がいつもの半分以下の時や、嘔吐に下痢を伴う時は、ぐったりして元気がなくなり、アシドーシス発作を起こす危険性が高くなりますのですぐ受診し、点滴でブドウ糖を補給してもらいましょう。数日間で回復しない場合は高濃度のブドウ糖液の点滴も必要になりますので、入院治療が原則です。早めに医療機関を受診しましょう。

 

 

 ● インフルエンザなどに罹ったとき

 

注射器 インフルエンザをはじめとする高熱を伴う感染症に罹ったときは、有機酸代謝異常症にとって大きなリスクとなります。調子の良いときに是非、予防接種を受けるようにしてください。インフルエンザに罹った時は抗インフルエンザ薬の使用をお勧めします。

 

 

 ● 食欲不振のある時

 

 発熱や嘔吐が無くても有機酸代謝異常症患児には、食欲不振になることがよくあります。食事量が十分でないと発育が遅れるだけでなく、エネルギーが不足するので異化作用が進行し、重いアシドーシス発作を起す危険性が高まります。その場合は、鼻からチューブを挿入して経管栄養を行うことがあります。経管栄養が長期に及ぶ時は手術でお腹に胃を通じる穴を開け(これを胃瘻(いろう)とよびます)、そこから栄養チューブを挿入し経管栄養を行うこともあります。

 

 

 ● 再軽症型の有機酸代謝異常症と診断された方へ

 

 タンデムマス・スクリーニングで発見される有機酸代謝異常症の一部には、診断時に症状が無い、いわゆる「最軽症型」の患児がいます。このタイプの患児は尿中にごく少量の有機酸を認めるのみで、将来症状がでるかどうかも分かっていません。一種の体質と考えている専門家もいます。しかし、最軽症型でもアシドーシス発作が起こる可能性は否定出来ませんので、発熱や嘔吐・下痢症のため食事も十分に摂れず元気が無いと時は主治医を受診しましょう。

 血中カルニチン濃度が低い場合は、最軽症型であってもカルニチンを服用することがあります。

最軽症型患児が将来発症することがあるかどうかを確かめるためには、経過や状態を長期的に追跡調査する必要があります。

 

 

 ● 有機酸代謝異常症の出生前検査について

 

 『有機酸代謝異常の中には、生後間もなく急性の経過をとって、どんな治療も効かず死亡してしまうケースが少なからずあります。上の子どもさんがそのような病気だった場合、あまりに不憫だったので、お腹の中にいる胎児が同じ病気を持っているかどうか検査してもらえないかという相談を受けることがあります。そして病気でないことを確認できれば安心できるし、万一持っていることがわかれば妊娠を中断したり、あるいは出生直後から治療を初めて発症させない対策をとることもできる可能性があります』…続きはpdf『有機酸代謝異常症の出生前診断について』

※参考記事…『遺伝カウンセリング』

 

 

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