【目次】
●脂肪酸代謝異常症とはどのような病気ですか?
●タンデムマスス・クリーニングで脂肪酸代謝異常症と診断されたかたへ
1. 脂肪酸の代謝とエネルギー産生
ヒトは食事由来の栄養素より生命維持に必要なエネルギーを賛成しますが、絶食が続いた時には体内の糖質、蛋白質、さらには脂肪を分解してエネルギーを作ろうとします。脂肪酸代謝異常症の患児では脂肪からエネルギーを作ろうとします。脂肪酸代謝異常症の患児では脂肪からエネルギーを作り出す過程(これを脂肪酸ベータ酸化経路といいます)に障害があるため、空腹時や運動時にエネルギー不足に陥ってしまいます。
主な脂肪酸代謝異常症MCAD欠損症VLCAD欠損症TFP(LCHAD)欠損症CPT1欠損症CPT2欠損症全身性カルニチン欠乏症グルタル酸血症2型
2. 脂肪酸代謝異常症の症状
脂肪酸代謝異常症の症状で多いのは、発熱時や絶食が続いたときに起こるけいれんや意識障害です。重症では、今まで元気であったのに突然死をすることがあります。また、筋力低下、筋痛、息苦しさ(心不全)などといった筋症状で発症することもあります。筋症状が進行すると筋肉が壊れ、横紋筋融解症という合併症を生じ、尿の色が赤褐色になります。腎臓の障害を起こす危険性がありますので、疑われた場合は大量の点滴をして腎障害を予防します。ごく一部ですが、新生児期より心筋障害が急速に進行する最重症型も知られています。
3. 確定診断
一般的検査で、低血糖、アシドーシス、高アンモニア血症、肝機能障害やクレアチニンキナーゼ(CK)の上昇などが特徴です。特に低血糖にもかかわらずケトン体が低値であることが多いのが特徴で、診断する上で参考になります。
タンデムマス・スクリーニングで発見される脂肪酸代謝異常症の多くは無症状です。しかし、発熱や食事が摂れないときは油断せずに早めに病院を受診し、検査、治療を受けるようにしてください。
1. 急性期(けいれん、意識障害や筋症状のある時)の治療
脂肪酸代謝異常症の急性期にはけいれんや意識障害、筋痛などの筋症状がよく見られ、入院治療が必要です。低血糖やCKが高値の場合は、改善するまで十分なブドウ糖の点滴を行います。けいれんが長時間続き、意識障害が改善しないなどの重い症状を伴う場合は、脳の障害を予防するため集中治療が必要となります。
2. 慢性期(状態が落ち着いている時)の治療
長時間の絶食を避けることと食事療法が中心です。
ヒトは絶食が長く続き、エネルギー不足になると異化作用が進み、身体の構成成分を分解してエネルギーを作ります。しかし、脂肪酸代謝異常症では脂肪から十分なエネルギーを産生できないので、絶食が続くとエネルギー不足に陥り低血糖、筋痛、アシドーシスなどの症状が出現します。そのため、長時間の空腹を避けることが最も重要です。
年齢食事間隔の目安6ヶ月まで4時間以内3歳まで8時間以内新生児期3時間以内1歳まで6時間以内3〜4歳以上10時間以内
発熱や嘔吐・下痢などで十分食事が摂れないときは一大事です。脂肪酸代謝異常症では、発熱時や長時間食事を摂っていないときに症状が出ることが知られています。発熱時は普段よりエネルギー必要量も増えるので、十分なエネルギー摂取が必要です。糖質はエネルギー源として重要で、体調の悪いときには糖質の入っている甘いものをまず摂取しましょう。果汁やブドウ糖の入ったイオン飲料(エネルゲン®、ポカリスエット®など)、ゼリー状エネルギー飲料(ウイダーinゼリー®、エネルギーインなど)もエネルギー補給に便利です。経口摂取が出来ないときは、ためらわずに受診しブドウ糖の点滴を受けましょう。普段から医療機関との連携を密に保つことが必要です。
脂肪酸は脂質の主要成分で、構成する炭素の数により長鎖、中鎖、短鎖脂肪酸に分類されています。
1.長鎖脂肪酸代謝異常症に対する食事
長鎖脂肪酸の代謝異常症(VLCAD, TFP(LCHAD), CPT1, CPT2, CACTの各欠損症)では、長鎖脂肪酸を制限する必要がありますが、エネルギー源として吸収の良い中鎖脂肪酸(MCT)を利用することができます。乳児期はMCTを含んだ特殊ミルクのMCTフォーミュラ(明治721)を母乳や調整粉乳(普通の粉ミルク)と混ぜて与えます。通常MCTフォーミュラとの比率は1:1で開始しますが、低血糖が見られる場合はMCTフォーミュラの割合を多くします。離乳期以降は調理にMCT油を用いたり、市販のMCT油をを使用した菓子類などを利用したりすることもできます。また長鎖脂肪酸の代謝異常症では離乳期以降低脂肪食にします。具体的には長鎖脂肪酸摂取量が総カロリーの5-10%以下になるように食品を選択します。
2. 中鎖脂肪酸代謝異常症にはMCTは使いません
中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症やグルタル酸血症2型のように、中鎖脂肪酸の代謝過程に障害がある病気では、MCTを使用しないように注意してください。
3. その他
脂肪酸代謝異常症の食事療法は一般に、「低脂肪高炭水化物食」ですが、症状によって程度は異なります。管理栄養士さんと相談して食事療法を行いましょう。和食は元来低脂肪食ですので、是非和食中心の食生活にしてください。
1.お薬について
脂肪酸代謝異常症では血液中のカルニチンが低下しやすいことがしられています。血液中のカルニチンが低下している場合は、カルニチン(エルカルチン錠)を投与します。カルニチンは蓄積した有害物質と結合し、体外へ排泄する働きがあります。
全身性カルニチン欠乏症は他の脂肪酸代謝異常症と異なり、食事療法は不要で大量のカルニチンを服用するだけで症状が改善します。
2.運動時の注意事項
運動する場合は低血糖にならないようにこまめに糖質でエネルギーを補給します。ブドウ糖の入ったイオン飲料(ポカリスエット、エネルゲン)や、ゼリー状エネルギー飲料(ウイダーinゼリーのエネルギーイン)は有用です。
また筋痛を起こさないように適宜休憩をとるようにします。マラソンや登山など長時間筋肉を使ってエネルギーを消費していくスポーツもなるべく避けたほうが良いでしょう。症状の軽重は病気の種類や個人の体質によって異なりますので、主治医とよく相談しましょう。
VLCAD欠損患者(2歳)に用いている説明文書(脂肪酸代謝異常症共通)
ご両親様へ
極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症では発熱、感染、飢餓などを契機に低血糖や横紋筋融解(筋肉が壊れること)を発症することがあります。
低血糖の症状
低血糖症状が出るまでの絶食時間は年齢によっても異なりますが、1~3歳では通常8~10時間とされています。症状としては以下のようなものが挙げられます。下に行くほど、血糖が低くなります。
1) 空腹感、あくび。
2) イライラして機嫌が悪い、無気力、倦怠感。
3) 冷や汗をかく、手、足が小刻みに震える、脈が速い、顔面蒼白。
4) ボーっとして、受け答えがはっきりしない。
5) 意識消失、けいれん、昏睡。
低血糖の対策
大切なのは朝、昼、晩の食事をきちんと食べ、さらにおやつなどの間食を午前、午後、寝る前に摂らせることです。8時間以上の絶食はなるべくさけ、長くても10時時間以上は空けない様にしてください。
1)~3)の様な症状が見られた場合は前回お渡ししたブドウ糖液を1~2本飲ませ、引き続き食事を摂る様にして下さい。
もし、嘔吐、下痢などで食事が摂れない場合や4), 5)の症状がある場合は点滴が必要ですので急いで病院を受診してください。
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